みなさんは「ペットロス」という言葉をご存じでしょうか。最近ではメディアを通じてペットロスに対する様々な情報が流されているので、動物を飼育していらっしゃる方々ならば一度は耳にされたこともあるかもしれません。一般的には愛する動物を失ったことに深く傷つき、悲しみの状態から抜け出すことができないことを表す言葉です。愛する対象を失ったショックが大きく、深い悲しみ、孤独感、罪悪感などから周りの人とのコミュニケーションができなくなったり、生きる気力なくしてしまう心の病で「ペットロス症候群(シンドローム)」ということもあります。
アメリカではこの現象についての社会的理解が早くからされており、大学や病院で研究がなされています。ペットロス症候群に陥ってしまった人々へのサポートシステムも充実しておりペットロス110番という電話相談サービスや同じ悲しみを持った人々のコミュニケーションネットワークといったものも設けられています。
ここで注意が必要なのは、日本では「ペットロス」という言葉が多用され、その意味が曖昧になってきたということです。「人とコミュニケーションができない」「気力をなくす」という状態を、いわゆるペットロスと考えると、その状態は、家族の一員である動物が亡くなれば誰でも起こりうる、自然な反応です。
「重度のペットロスの状態が何ヶ月も続いて克服できない場合」や「体調を崩して他に病気が発症し、人の病院に通っている場合」などには、専門カウンセラー(心療内科)などに相談する必要があるでしょう。ただし、「ペットロス」そのものは、病気の状態ではないということも理解していなければいけません。
人が動物から受ける恩恵は非常に大きなものです。たとえばある統計では車椅子に乗った方が公園にいるとき、一人でいる場合と犬をつれている場合とでは、後者の方がはるかに多くの人がこの人に話しかけているというデータがあります。動物がいることで人と人のコミュニケーションが増え、孤独から抜け出す大きな手助けなっていることはいうまでもありません。
また、近年、日本でも老人ホームや病院施設などで動物を伴った訪問活動が増えてきていますが、そこでは動物に触れたいという気持ちから身体を動かせるようになったり、精神が安定してきたりという効果もでてきているといわれています。そのような特殊な場面でなくても、動物を飼育している人ならば誰でも、日々の生活の中で動物に慰められ、心の安らぎと喜びを与えられていることを感じない方はいないでしょう。その存在の大きさがあるからこそ、動物を失ったときの悲しみ、痛みは想像をも超えるものがあります。
動物病院という特殊な環境の中で私は、動物の死に立ち会うこと、そしてその飼い主の方の悲しみに接する姿を目の当たりにすることが数多くあります。このようなときペットロスのつらさを実感し、飼い主の方のために私はいったい何ができるのかいつも考えてしまいます。診療を受けている動物たちに日々接していると、私たち病院スタッフも愛着を感じないではいられません。もちろん飼い主の方々の愛情には及びませんが、私たちにできる最大限の愛情で治療に携わっています。当然、その子が亡くなったときは、私たちも寂しく涙をこらえきれないこともあります。このようなときいつも心に思うのは、一番悲しんでいるのは飼い主の方々であり、動物を失った悲しみを通り抜けなければならないのも飼い主であるということです。
ペットロスから抜けだし、元通りの生活のペースを取り戻すためには、やはり周りの人たちの手助けが必要になります。私たち動物病院のスタッフだけでなく、亡くなった動物のことをよく知っていたお友達や過去に動物を亡くした経験のある方などと話をすることはとても大きな手助けとなるでしょう。まず、無理のない内容で話を聞いてあげるところから始めましょう。 たいへんつらいことですが、動物と生活をしている限り、いつかはその死と向き合う時期が誰にでもやってきます。そして、その時に落ち込んでしまうのは、とても自然なことです。
私も子供の頃から動物を飼っており、自分のペットの死に直面したこともあります。寝食を共にした動物たちとの別れは、寂しさと後悔で、やはり数週間あるいは数ヶ月にわたって、日々の生活の一つ一つに悲しみを呼び起こされるようでした。特に長く生活を共にしたペットに対しては、15年以上たった今でも時折思い出すことがあります。そんな時、今現在共に生活している動物たちが亡くなったときには、あのときのような思いはしないようにと心がけています。
動物を亡くされたご本人でも、周りの方々でも、そして動物が亡くなって何日が過ぎていても、遠慮なく動物看護士や獣医師とお話をしに来ていただければと思っています。
残念ながら、日本でのペットロスに対する取り組みはまだ始まったばかりです。メンタルケアの専門医がみなさんの身近にいてくれると心強いのですが、日本ではまだ難しいようです。これからも、一人でも多くの人の理解と協力が得られるよう皆で努力していきたいと考えています。
動物看護士 秋葉亮子
10年ほど前より、日本で「ペットロス」という言葉が使われるようになり、今では誰でも一度は聞いたことがあるほど定着しました。しかし近年、あまりにも特別視・多用されているめ、その言葉の使われ方に疑問を感じることが多くなりました。
家族の一員である動物が亡くなったときには、「悲しくなり」「食欲もなくなり」「仕事も手に付かず、気力がなくなる」「機嫌が悪くなり怒りっぽくなる」ということは私でも経験があります。つまり、ごくあたりまえの感情で自然なことなので、それだけの症状で「普通ではない」「病気になった」と判断するべきではないでしょう。もし、全く悲しむことなく「元気で明るく、ニコニコしているような人」がいたら、私が悲しくなります。
悲しみの表現は人により様々ですが、つらい思いをされている方がいたら、お友達やご家族から時々でも良いので声をかけてあげましょう。特別視し過ぎることなく暖かい気持ちで話をする機会を作ってあげることが大切であると言われています。
そして、動物と別れてつらい思いをされている方は、ほんのすこし気が向いたときだけで良いので、会話をしましょう。会話の中で、なにかが見つかるかもしれません。ただし、無理をする必要はありません。お体だけは大切にしてください。
院長/獣医師 吉村徳裕

