癌について

早期発見が治療のポイントEarly detection

早期発見が治療のポイント

現代、犬猫の病死原因は人間と同様に「がん」がトップになっています。人間の場合、受診のきっかけは何らかの自覚症状によることが多いと思いますが、動物の場合は家族が変化に気付いて初めて受診することになります。つまり人間と比べて発見までの時間が遅れてしまいます。特に体の中や血液の「がん」は発見が遅れがち。そうならないためにも、定期的に健康診断を受けましょう(高齢の動物では年に2回以上)。また、普段の生活で下記のような症状が動物にあれば、なるべく早く受診しましょう。

がん早期発見のためのチェック項目

  • しこり・腫れ・ぐりぐり(リンパ腫・皮膚がん・乳腺がんなど)
  • 咳・鼻汁・鼻血(鼻腔内腫瘍・肺がんなど)
  • 元気がない・散歩の途中で座り込む(全てのがんに一般的にみられる症状)
  • 体重減少(全てのがんに一般的にみられる症状)
  • 慢性的嘔吐、下痢、便秘(胃や腸のがんなど)
  • なかなか治らない傷や皮膚病(皮膚がん・リンパ腫など)
  • 血尿、尿が出にくい(膀胱がんなど)
  • 極端な性格の変化(脳腫瘍など)

内科系疾患

心疾患 内分泌疾患
  • 各種弁膜疾患
  • 心筋症
  • 心嚢水貯留
内分泌疾患
  • 副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)
  • 副腎皮質機能低下症(アジソン病)
  • 甲状腺機能亢進症
  • 甲状腺機能低下症
  • 上皮小体疾患
  • 糖尿病
胃腸疾患 腫瘍性疾患
  • 急性・慢性膵炎
  • 膵外分泌疾患
  • IBD
  • 抗菌剤反応性腸症
  • 食事反応性腸症
  • アレルギー性腸炎
腫瘍性疾患
  • リンパ腫
  • 白血病
  • 血管肉腫
  • 肥満細胞腫
  • 乳腺腫瘍
  • 膀胱腫瘍
  • 肝臓がん
  • 肺がん
  • 腸管腫瘍
  • 骨肉腫・軟骨肉腫
  • メラノーマ
  • 睾丸腫瘍
  • 髄膜腫
神経系疾患 免疫介在性疾患
  • 頭蓋内腫瘍
  • てんかん
  • 脊椎軟化症
免疫介在性疾患
  • 免疫介在性溶血性貧血(IMHA)
  • 免疫介在性血小板減少症(ITP)
  • 多発性関節炎
  • 多発性筋炎
  • 咀嚼筋炎

「がん」の診断と検査

動物の状態を把握するための検査

  • 血液検査
  • 尿検査
  • レントゲン
  • 心電図
  • 超音波検査(エコー)など

腫瘍を診断するための検査

  • 細胞診
  • 病理組織検査
  • 内視鏡検査
  • CT/MRI検査 など

※例えばこの中で「細胞診」は、動物にとって最も負担が軽く、簡便な検査です。通常はしこりから細胞を採取するだけなので、痛みもなく麻酔も必要ありません。

「がん」の治療「Cancer」 treatment

「がん」と診断された時、最も大切なのは家族としてどのような治療を望むかを明確にすることです。 治療法には、「外科手術」「化学療法」「放射線療法」などがありますが、獣医師による説明を受け、がんの状態やそれぞれの治療法、費用についても十分に質問し、話し合いましょう。これから先の治療では、獣医師とのコミュニケーションがとても大切になります。

外科手術

外科手術

できるだけ早期に発見し、がん細胞を取り残さないように切除します。現在転移がなく、発生場所が限られたがんに適しています。

放射線治療

放射線治療

皮膚や頭頸部、皮下組織などに発生した局所性がんに効力があります。手術前後などに補助療法としても用います。痛みが著しい時のQOL改善などで使用されることもあります。

化学療法

腫瘍を診断するための検査

リンパ腫や白血病のような、リンパおよび造血系組織の腫瘍に特に効果があります。さらに手術前後の補助療法、放射線との併用療法として用いられます。

かけがえの
ない家族のためにirreplaceable

かけがえのない家族のために

がんと診断され、場合によっては完治が難しいと告げられることもあるでしょう。告知後は、今すぐに大事な存在がいなくなってしまうかのような不安な気持ちになるかもしれません。しかし、ペットががんになった時、動物に代ってその告知をしっかり受け止めなければならないのは飼い主です。飼い主の動揺や落胆は、動物にも大きな影響を与えてしまいます。

とても辛く心配でしょうが、告知後、最も大切なのは「これからどう過ごしていくか」です。どうすれば家族と一緒にいる時間を多く持てるのか、どうすれば快適に時間を過ごしていけるのか、ペットにもし苦痛があれば、それを少しでも緩和してあげることができるのかなど、前向きに考えていきましょう。在宅治療や、がんの痛みを和らげるための治療が可能な場合もあります。獣医師と相談しながら、家族として一番良いと思えることをしてあげましょう。

腫瘍性疾患neoplastic disease

リンパ腫

【説明】
リンパ球の悪性腫瘍で,多くの場合複数のリンパ節が腫れてくる.下顎,肩前,腋窩,膝窩(ひざのうしろ)などのリンパ節は腫れるとわかる.

【症状】
最初はリンパ節の腫れ以外元気であるが,しだいに元気食欲もなくなり,やせてくる.貧血が起こることもある.

【治療】
唯一,化学療法(薬物療法)の効果が証明されている悪性腫瘍なので薬物療法で治療する.寛解も可能である.ただし再発もあるので完治するということはない.しかしながら比較的健康な状態で数カ月から長いものでは年の単位で生存できるので,犬の1年は人間の数4-5年に相当すると考えれば,治療を行う意味も十分ある.

黒色腫(メラノーマ)

皮膚の黒色腫は犬の皮膚腫瘍の中では比較的少なく,黒い犬,老犬に多い.頭部,四肢,胸部,腹部,背部に境界明瞭な,ドーム型,黒色の結節ができるものは多くは良性の黒色腫である.切除でふつうは治癒する.しかしながら口腔内や爪床(爪のつけね)に発生するものは非常に悪性で,発見したときにはリンパ節転移がすでに起こっていて手遅れのこともある。

血管肉腫

犬で若齢および老齢にみられる良性の血管を作る細胞の腫瘍.四肢,胸部,腹部,背部,頭部の皮膚に,血マメのような病変ができるものが多い.単純に切除すれば治癒する.またこの悪性型の血管肉腫は9歳以上の犬を中心に発生し皮膚の深いところ,すなわち皮下織から筋層に多くみられる.広範な切除と場合によっては化学療法がすすめられる.また血管腫と血管肉腫は脾臓にも発生し,脾臓が大きくなって腹部が膨満し,苦しむこともある.どちらも脾臓を摘出する.病理検査で悪性とわかった場合には化学療法を行う.

肥満細胞腫
(ひまんさいぼうしゅ)

【説明】
人間ではみられない腫瘍でおもに皮膚に結節を作る.炎症の際に活躍する肥満細胞が無制限に増殖したものであるが,切除しても再発しやすく,また肥満細胞が出す物質のために,胃を荒らしたり,ショックが起こったり,全身への影響も大きい.まれに内臓の中で増えることがあるが,外からは容易にわからないため診断が遅れることもある.

【症状】
皮膚の盛り上がり,結節

【治療】
広範な切除,ステロイド療法

乳腺腫瘍

【説明】
犬の腫瘍で圧倒的に多いのは乳腺腫瘍である.犬の乳腺腫瘍の発生頻度は10万頭につき198.8頭でとくに雌犬の腫瘍としては最も多い(全腫瘍の半分).発生年齢は10-11歳前後が多い.エストロジェンという卵巣から出るホルモンに支配されて腫瘍が発生するようなので,早くから避妊手術をした雌には発生がなくなる.

【症状】
乳腺部のしこり,大きな固まり,あるいは皮膚の炎症のようにみえるというのが代表的な症状.老犬でこのような症状があったらすぐに検査が必要.すべてが悪性の癌ではないが,悪性のものは早期発見しないと肺などに転移するので,できるだけ小さなうちに病院で正しい診断と処置を受けたほうがよい.

【治療】
予防法としては早期の避妊がある.アメリカでは最近犬の乳腺腫瘍がとても減っているのは雌犬はほとんどが若いうちに避妊手術を受けているからと言われている.すなわち,最初の発情までに避妊手術を受ければ乳腺腫瘍の発生は非常に少なくなるといわれている(危険度はふつうの犬の1/50にも下がる).また最初の発情をむかえても,2回目の発情をむかえるまでに手術を受ければ減らせる(危険度はふつうの犬の1/3以下に下がる).
避妊手術は,乳腺腫瘍以外にも,子宮や卵巣の病気も予防し,発情期に発生するさまざまなトラブルも防止でき,精神的にも行動的にも安定した最良の家庭犬をつくるので,犬の長寿と健康を望むなら,是非とも早期の避妊手術を行った方がよい.腫瘍が発生してしまった場合には手術による切除がすすめられる.もちろん,麻酔前検査として血液を検査し,さらに転移の有無をみるためX線検査も行われる.そして切除した腫瘍は必ず病理検査で悪性であるか良性であるかを診断し,その後の処置を決める.

骨肉腫

大型犬の成長期,または骨折や骨の炎症の後など,とくに四肢の骨に慢性的に負荷がかかって炎症が続いた後などによく発生する骨を作る細胞の腫瘍.転移しやすい悪性腫瘍で,通常は断脚が必要である.
断脚後には必ず化学療法を行う.化学療法は再発や転移を遅らせることができるが,肺転移で死ぬものが多い.

膀胱移行上皮癌

膀胱粘膜の悪性腫瘍.血尿など慢性膀胱炎の症状が続き,尿を検査すると癌細胞が出ているので発見されることがある.老犬では比較的よくみられる腫瘍である.慢性的な炎症が引き金になっている可能性があるので,膀胱炎は長引かせずに早めに直す必要がある.発生部位によっては膀胱を一部切除することも可能であるが,場合尿道が出て行く部分に発生し,切除できないことが多い.腹腔内に転移することもある.化学療法はあまり効果はない

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